5年目を迎えたオンラインコーチング。事業環境が大きく変わる時代に、Hondaが立ち止まる時間をつくり続ける理由

「自らが夢みるモビリティの創造を通して、より多くの人の夢の力となり、人と社会を前進させる原動力となること」を目指す本田技研工業株式会社(以下、Honda)。2021年、Hondaは人材育成体系を見直し、階層別研修を廃止して、従業員が自ら手を挙げて学ぶ「完全手上げ制」へと転換しました。その柱の一つとして始まったのがオンラインコーチング。弊社はPit in Coachingというサービス名で企画から参画してきました。


当初は労働組合の施策でしたが、その後人事施策へと移行。現在は業務時間内に受講できる制度として運用され、この10月で5年目を迎えます。業界が大きな変化のただ中にある今、Hondaはなぜこの取り組みを続けているのか。人事部人材開発課の糸原様・宮本様と、実際にコーチングを受けられた神田様、李様に弊社代表の齋藤豊がお話を伺いました。

Interview

インタビュー

「自己啓発の一つ」から、人材育成の柱へ。一人ひとりの主体性が、変化の時代を進む力になる。

人事部 人材開発課 主任 糸原様(写真左)
人事部 人材開発課 宮本様(写真右)
  1. 5年で変わったのは、施策の位置づけと受け手の主体性
    糸原様

    糸原:当初期待していたのは、従業員が自ら内省しながらキャリアを考え、自律的な成長やキャリア形成につなげていくことでした。この5年で大きく変わったのは、施策そのものの位置づけです。以前は自己啓発施策の一つという印象が強かったのですが、現在は業務時間内に受講できるようになり、人材育成体系の中でより重要な役割を担う施策になってきています。個人が自主的に取り組むものから、会社として従業員の成長を支援する仕組みへと進化してきたと感じています。

    宮本:手応えを感じているのはリピート率の高さです。昨年は受講者の半数以上が2年連続の受講で、中には毎年の方もいらっしゃいます。自ら必要性を感じ、成長意欲と主体性を持って取り組んでくださる方が増えている証だと受け止めています。

  1. 一般社員のうちから受けられることに、長い目で見た意味がある
    宮本様

    糸原:糸原:2021年に育成体系を見直した際、それまでの階層別研修をすべてなくし、完全な手上げ制へと切り替えました。従業員一人ひとりの主体性を引き出したうえで、成長のきっかけを提供したい。その考えの延長線上にコーチングがあります。

    宮本:一般社員のうちからコーチングが日常の中にあり、自分の成長のツールとして活用しながら内省を深められれば、役職者になったときに部下へコーチングを勧めたり背中を押したりできるようになる。そうした方々がマネジメント層になっていく。長い目で見れば、大きな変化につながると考えています。

  1. 変化の時代に必要なのは、スキル以前に「何に挑戦したいか」

    宮本:大きな変化の中では、新しい知識やスキルを身につけることも大切ですが、それ以前に「自分は何に挑戦したいのか」「どんな価値を発揮したいのか」を考え続けることが重要だと思っています。

    糸原:事業の方向性が大きく変わる局面では、これまで進めてきた取り組みを見直すことになったり、自ら進むべき方向に迷いが生じたりする方も少なからずいらっしゃいます。そうした時期だからこそ、改めて自分がHondaで働く意義や、何を成し遂げたいのかを問い直す機会が必要になる。目の前の業務に追われていると、意外と立ち止まって考える機会は少ないものです。コーチングはそうした自分と向き合う時間をつくり、次の行動につなげるきっかけになる。そこに価値があると思っています。

  1. 受講者からの高い評価と、施策継続の要望

    宮本:さまざまな施策の優先順位や投資対効果が問われる中でも継続している理由の一つは、実際に受講した従業員から「この施策はぜひ継続して欲しい」という声が寄せられていることです。

    糸原:私自身も過去にコーチングを受講し、考え方や行動が変わった経験があります。だからこそ、すべての効果を数値だけで測ることは難しくても、一人ひとりの成長や挑戦を後押しする価値のある施策だと感じています。継続を判断する際は、アンケート結果だけでなく、利用率や全セッションの継続率、リピーター率など複数の指標を総合的に見ています。そこに人材育成施策全体の中での位置づけや、事業環境、会社として注力すべきテーマなども踏まえながら判断しています。

  1. 仕事と生活を切り分けずに話せる場

    宮本:受講前は漠然とした悩みやモヤモヤを抱えていた方が、セッションを通じて自分の考えを言語化し、具体的な行動につなげることができた、という声を多く聞きます。「数年間悩んでいたことがクリアになりました」とおっしゃった方もいました。自分の中で言葉にできなかったモヤモヤを、コーチの問いによって引き出してもらえた。それはまさにコーチングで得ていただきたかったものなので、そうした声が届くと嬉しくなります。

    糸原:印象的なのは、仕事と生活を切り分けずに話せることの価値です。育児との両立やワークライフバランスに悩んで活用される方も一定数いらっしゃいます。ただ、日々の業務や2way(1on1)では、どうしても仕事は仕事、家庭は家庭と切り分けるのが習慣になっている。コーチングでは生活の話になったとしても最後はきちんと仕事やキャリアの話に落ち着くので、納得感もありました。人生全体として見られるようになると、見え方が変わります。そうした新たな気づきがあることは、とても大きいと思います。

  1. 「自分には必要ない」と思っている人にこそ、届けたい

    宮本:一部の方だけでなく、「自分には必要ない」と思っている方にこそ体験していただき、内省から新たな気づきや次への成長につなげていただきたいと思っています。

    糸原:何を学べばいいか、どこを目指せばいいか分からないという方がいらっしゃるのも事実です。そうした方にとって、一番最初のきっかけがオンラインコーチングであり、そこで目指したい方向が明確になって、次の学びや自己研鑽につながっていく。そんな学びのパスをつくれたら理想的だと考えています。次の5年では、「特定の人が受けるもの」ではなく、より多くの従業員が「成長したいと思ったときに自然と活用できるもの」として認識される状態を目指したいですね。

  1. せかはじは、Hondaを理解し同じ目線で伴走してくれるパートナー

    宮本:せかはじさんは定期的にホンダコレクションホールにお越し頂くなど、Hondaの事業や社風を深く理解し、心から応援してくださっていることを感じます。単にサービスを提供いただくだけではなく、運営面でも柔軟に対応いただき、その都度一緒に考えながら進めていただけるパートナーであることも大きな魅力です。同じ目線で伴走していただけることは、担当として本当に心強く感じています。

    糸原:また、コーチの皆さんが全員PCC(国際コーチング連盟認定Professional Certified Coach)でありCPCC(Certified Professional Co-Active Coach)であるという質の高さも魅力です。Hondaには「なぜそれをやりたいのか」「それは本当に必要なのか」と、常に「なぜ」を問う文化があります。人生全体を扱いながら「なぜ」を問うコーチングのスタイルは、その文化と親和性が高かったのではないでしょうか。

参加者の声

コーチングを受けようと思ったきっかけは何ですか?
また、実際に受けてみてどんな変化がありましたか?

本田技研工業株式会社 四輪研究開発センター 李様

成果が出せない焦りの中で。
「受かる前提で話しましょう」の一言が、扉を開いた。

当時の私は、今後のキャリアに対して不安と手詰まり感を抱えていました。成果を残したい気持ちはあるものの、アサインされる業務を選べないことも多く、「結局、実績を残せるかどうかは運やタイミング次第ではないか」と思っていたんです。活躍する先輩方と自分を比べては落ち込み、将来のキャリア像を描けずにいました。

きっかけは、上司との2way(1on1)でした。自分の仕事がきちんと前に進んでいるのか不安で、「定期的なフィードバックが欲しい」とお伝えしたところ、上司から「こういうオンラインコーチングがあるよ」と教えていただいたんです。1回きりではなく数回に分けて、自分のペースで実行と振り返りができる。それなら自分に合いそうだと思い、応募しました。

実際に受けてみて一番良かったのは、答えを教えられるのではなく「なぜそう思ったのか?」という問いかけを通じて、自分の中から答えを引き出してもらえたことです。1回45分×4回のセッションで「実行→フィードバック→振り返り」のサイクルを何度も回せたことで、確実に前進している実感がありました。

実は受講を始めた時点で、すでに「社内チャレンジ公募制度」を使って開発部署への異動に応募していました。でも自信がなくて、そのことをコーチには言えずにいたんです。それまでずっとユーザーサポートやシステム開発の領域にいたので、エンジンの研究開発は接点の少ない分野でしたし、過去に一度落ちた経験もありました。だから「落ちても前向きでいられるように、今の部署でどうやっていくか」という相談ばかりをしていました。

2回目のセッションで、思い切って応募のことを打ち明けたんです。すると「よかったら今まで話してきたことは一旦脇に置いて、新しいところへの挑戦だけに絞って話しませんか? 受かる前提で話をしましょう!」と言っていただきました。その瞬間、気持ちがパッと整理されて「本当はエンジン開発を本気でやりたいんだ」という自分の本音に気づくことができました。落ちるのが怖くて、逃げていただけだったんだと。

そこからは吹っ切れました。これまでの業務を棚卸しして、一見異なる業務でも活かせるスキルは何か、新しい領域で壁にぶつかった時にどう乗り越えるかを整理していきました。「なぜ異動したいのか」「自分のどんな強みが生かせるか」など、第三者の視点からも整理できたことで、結果として自信をもって面接に臨むことができました。「専門知識や経験よりも、あなたの前向きさや笑顔が強みなのでは」とコーチに言っていただいたことも、自分の武器を自覚するきっかけになりました。

印象に残っているのは、合格後に受けた最終回です。近況をお話しして浮かれていた私に、「この先の目標は何ですか?」とストレートに問われて。「受かって満足していた自分」に気づかされました。異動できて終わりではなく、次のステップを考えるきっかけになったんです。


今は覚えることが多くて、毎日が苦労の連続です。それでも、ずっと希望していた業務に携われているのでモチベーションは高く、生き生きと働くことができている感じがします。プライドは一旦横に置いて、入社1年目の気分でキャッチアップしている最中です。

本当にやりたいことがあるのに動けない、という方には、コーチングを利用してまず小さな一歩を踏み出してみてほしいです。リスクや不安を一度横に置いて、自分の中で「本当にやりたかったこと」の優先度を少しだけ上げてみる。どんなに小さくても一歩を踏み出すことで未来は変えることができます。


株式会社ホンダセールスオペレーションジャパン 主幹 神田 陽平 様

役職者になる前に、自分の「軸足」を見つけた。
今度は自分が、メンバーの背中を押す番。

きっかけは、同じ部門の後輩でした。勉強熱心でいろいろなことに挑戦している後輩がコーチングを受けていて、勧めてくれたんです。仕事のことだけでなく、家庭のことも含めて人生の広い範囲で相談できると聞いて、面白そうだなと。ちょうど「いろいろチャレンジしてみよう」と思い始めた時期でもありましたし、制度が始まったというニュースも目にしていたので、申し込みました。制度が始まって1年目からの受講になります。

コーチングを受けた経験は、率直に言うとかなりハードでした(笑)。簡単には答えられない問いを毎回投げかけられて、自分のことなのに意外と喋れないんですよね。それを必死に考えて、自分の言葉にしていく作業が本当に大変で。しかも考えるだけで終わらず、「次回までにどう行動するか」までがセットなんです。ただ、そのプロセスを重ねる中で、自分の中で曖昧だった「大事にしたいこと」の解像度が上がり、徐々に軸足がしっかりしていく感覚がありました。

社内にも上司との2way(1on1)やメンター制度があり、そこで得られるものももちろんあります。ただ、どうしても業務の話が中心になりますよね。上司の立場からすれば伝えなければいけないことがありますから、それは当然だと思います。コーチングは、そこから少し離れた「人生の目的」のような、キャリアだけではないもっと広いスコープでの対話ができる。そこが違いなのかなと思います。

最初にいただいた問いの中に「死ぬ前に、子どもに何と言われたいですか」というものがありました。大事なことなのに、考えたことがなかったなと。そこから、自分はどういう父親であり夫でありたいのかを言葉にするようになって、その上で仕事も考えられるようになりました。仕事の企画には目的や狙いがありますが、コーチングでは「自分がどういう思いを乗せたいか」に軸足を置いて考えます。それは企画書には出てこない部分ですが、どういう思いでこの仕事をやっているのかを自分の中に強く持つためには、とても大事な作業だったと思います。

役職者を目指す過程でも、「自分はどんなマネジメントをしたいのか」「何を大事にしたいのか」が明確になっていたことは大きかったですね。役職者の選考にグループディスカッションがあるのですが、「今のHondaに必要なマネジメントとは」といったテーマに対して、一度自分の言葉で話したことがあるので、落ち着いて臨めました。文章にまとめることは皆さんやっていると思うんです。でも、人と向き合ってその場で自分の言葉で話せるかどうかは、また別の能力だと思っていて。コーチとの対話を通じて言語化する習慣がついていたことが、大きかったと思います。

印象に残っているのは、「明るくフラットで、みんなが自由に意見を出せる職場が今は必要だと思う。自分もそんな空気をつくれる人になりたい」と話した時のことです。そこで出された次回までの宿題が、「1日10回、人を元気にする」でした。実際にやってみると、これが難しい(笑)。数えてみたら1日3回できればいいところで。ただ、それにチャレンジしている毎日が結構楽しくて。エレベーターで一緒になった知り合いに声をかけたりすると、そのちょっとしたきっかけから仕事の話ができたりもする。「いい職場にしたい」という思いを、日々の具体的な行動に落とし込むきっかけになりました。忙しくなるとどうしてもギスギスしてきますが、「自分はこうだったな、楽しくやらなきゃ」と自分で軌道修正できるようになったのは、その前後で変わったところだと思います。

役職者になった今は、メンバーに仕事を任せる際、すぐに自分の答えを伝えるのではなく、まず「どういう考えでこれをやっているの?」と問いかけるようにしています。聞いてみると、実は誰かに言われたままやっていた、ということも少なくない。そういう時は「もう少し考えて、自分のものにしてから進めよう」と促します。詰めているようにならないよう気をつけてはいますが、問われて考えることの価値は、自分が受ける側を経験したからこそ実感しています。

最近感じるのは、若手が自信を持てずにいることです。いいアイデアを持っているのに、少し出しては引っ込めてしまう。何が正解かなんて今は誰にも分からない時代ですから、もっと自信を持って提案してほしい。だからしっかり聞いて、「それすごくいいよ」と自信をつけて、提案まで持っていかせるようにしています。最初は自信がなさそうだった若手が、今では堂々と役員報告までするようになりました。そういう変化が本当に嬉しいですね。

特に何かにチャレンジしているメンバーには、コーチングを勧めています。チャレンジしているからこそ生まれる迷いや悩みがあって、もがいている時ほど、一度立ち止まって「自分は何を大事にしたいのか」を見つめることに意味があると思うんです。本田宗一郎の言葉に「自分のために働け」というものがありますが、そもそも「自分とは何か」「自分は何を大事にしたいのか」に向き合い、それを見つけていく作業がコーチングだと感じています。自分の軸が見えてくると、仕事でもプライベートでも「何のためにやるのか」という目的感が強くなる。その結果、日々の選択や行動に納得感が生まれ、毎日がより充実していく。その感覚を、ぜひメンバーにも味わってほしいと思っています。

経営環境が厳しい時ほど、一人ひとりが自分の個性を理解し、それを強みとして発揮することが重要です。まさに「得手に帆を上げて」、それぞれが自分らしく行動していく。その人の核となるものや強みを見つけ、行動につなげるうえで、コーチングには大きな可能性があると感じています。

これまで3名のコーチにお世話になりましたが、それぞれ幅広い経験をお持ちで、問いを通じた内省だけでなく、必要な場面ではマネジメント領域について実践的なアドバイスもいただけました。皆さん私より年上で、私が悩んでいたようなことはすでに経験されてきた方々なので、安心して相談できたのも大きかったですね。コーチングは「自分の軸足」を見つける機会だと思います。軸があるからこそ、迷わないのではなく、迷っても戻る場所ができる。その軸があるからこそ、安心していろいろなことにチャレンジできるようになる。まだ受けたことがない方には、ぜひ一度体験してみてほしいですし、グループ全体の役職者にも、さらに広がっていくといいと思っています。